「じゃあ、訓練はいったん終わりにして休憩に入ろうか」
なのはさんがそう言ったのであたしは構えていたクロスミラージュを待機状態に戻した。今日の訓練は個別だったのであたしはなのはさんに、スバルはヴィータ副隊長、エリオとキャロはフェイト隊長に教わっていた。
「ティアナ、今日はなかなか良かったからこれからも頑張ってね」
「ちょっと、なのはさん……?」
「ティアナは私にこういうことされるの嫌?」
「嫌じゃないですけど、恥ずかしいです」
「にゃはは、大丈夫だよ、誰も見てないから」
そう言ってなのはさんが頭を撫でてくれた。訓練はいつも大変で疲れるけど、あたしたちのことをちゃんと考えて作られたメニューだということがわかるし、こなしていくうちに力がついてきているのもわかるようになってきた。それに、こうやって撫でてもらうと気持ちいいし、疲れもとれていくような気がした。
“ヒュンッ”
“ビリビリ、バリバリ”
そんなことを思っていると、鉄球やら雷やらがとんできた。何事かと思って周りを見渡すと、
「いや、悪いな。手がすべっちまってな」
「ごめん、ごめん。私もそうなんだ」
なんてことを言いながらヴィータ副隊長とフェイト隊長がやってきた。その顔は申し訳なさそうなものではなく、攻撃が外れて悔しそうなものだった。
「もう、だめだよ二人とも。もっと気をつけないと。当たってたら大けがしちゃうところだったよ」
なのはさんは全く二人の様子に気づかないでそんなことを言っている。その二人もなのはさんには謝っているが念話で
(ティアナ、なのはに頭を撫でてもらうなんて何てうらやましいことを)
(なのはに手を出すとはいい度胸だ)
とか色々あたしに言ってきていた。あたしは今日生きていられるのだろうか。
そんなことはあったが、午前の訓練も終わり、なのはさんと二人でお昼を食べようと隊舎内を歩いていると、
「あ、なのはママにティアナさん」
「ヴィヴィオ、ちゃんと良い子に出来てた?」
「うん。それで二人はこれからどうするの?」
「これからティアナとお昼に行くところなんだよ」
「それ、私も一緒に良いですか?」
「私は別にいいけど、ティアナは?」
「あたしもなのはさんが良いならそれでいいですよ」
ヴィヴィオはあたしたちの返事を聞いて喜んでいる。正直、あたしはなのはさんと二人きりが良かったのだが、毎回、毎回邪魔が入ってしまう。と言ってもけしてヴィヴィオのことが嫌いだというわけではないのだけれど。むしろ、ヴィヴィオのことは好きだが、このことに関してはライバルだから。ヴィヴィオだけじゃなく、この六課メンバーのほとんどがなのはさんを巡って争うライバルなのだ。なのはさんはヴィヴィオが一緒にいたいと言ったのを純粋に喜んでいるが、あたしは
(ティアナさん、抜け駆けは駄目ですからね)
という念話が送られてきて喜ぶどころではなかった。フェイト隊長たちがなのはさんを恋愛感情として好きだということは六課で過ごしていてすぐにわかったが、ヴィヴィオまでそういった意味でなのはさんを好きだというのはすぐにはわからなかった。実際、本人にティアナさんには負けませんと宣言されるまでわからなかった。
なのはさんはあたしたちのやりとりに全く気づいた様子もなくヴィヴィオと手を繋いで歩いている。あたしは、自分に対しての好意にとことん鈍いこの人をしっかり護っていこうと思った。
PR