「あーずにゃん」
「にゃ、何するんですか、唯先輩。やめてください」
「あずにゃーん、そんなこと言わないで。ぎゅっー」
本当に唯先輩には困ったものだ。
今日もまた私に抱きついてくる。
もう何度も離すように言っているが先輩には全然効果がない。
ただ、最近は私は本気で抵抗していない気がする。
初めはやめてほしいと思っていたけど、今になっては唯先輩が抱きついてくるのを期待している自分がいる。
先輩の柔らかい体や香りに夢中になってしまっている自分に気づいたのは今から少し前のことだった。
練習のちゃんとしないで音楽用語もほとんど知らない頼りない先輩だと思っていたのに……それは今でも変わらない気もするけど……
「唯ちゃん、梓ちゃん、こっちに来てお茶にしましょう」
「わーい、ムギちゃん今日のお菓子はなに?」
ムギ先輩に言われた唯先輩はあっさりと私を離して笑顔でそちらに行ってしまった。
先輩の温もりがなくなった瞬間に寂しさがこみ上げてきた。
本当は離さないでいてほしかった、もっともっとぎゅっとしていてもらいたかった。
ムギ先輩の方を見ると、フッと笑ったような気がした。
律先輩や澪先輩もムギ先輩に良くやったといった顔を向けていた。
唯の家
「それでね、今日あずにゃんがね……」
お姉ちゃんは最近梓ちゃんのことをよく話す。
部活でもこんな所が可愛かったとか、梓ちゃんに抱きつくと気持ち良くて良い香りがするとか……。
それのことは今までは問題なかった。
お姉ちゃんが嬉しければ私も嬉しいかったから。
しかし、もうそうも言っていられなくなってしまった。
最近の梓ちゃんはお姉ちゃんに抱きつかれるのを嫌がっていない。
本人は嫌がっているふりをしているが周りから見たらばればれだ。
それでお姉ちゃんが私に抱きついてくる回数が減ってきている。
私はお姉ちゃんを渡したくない。
軽音部の先輩たちがお姉ちゃんを狙っていたのは知っていたし、梓ちゃんが増えた所で私のやることは変わらない。
「ういー、今日のご飯もおいしかったよ。いつもありがとね」
私のやることは誰が相手でもお姉ちゃんを離さないことだけだから。
次の日、学校で
「おはよう、憂」
「梓ちゃんおはよう」
「聞いてよ、昨日部活で唯先輩がね……」
教室で梓ちゃんと会うと梓ちゃんは昨日、私がお姉ちゃんから聞いたのと同じようなことを言ってきた。
口ではお姉ちゃんが勝手に抱きついてきて困るとか、いろいろ言っているが顔は嬉しそうに笑っていた。
いいんだよ、そんなに無理しなくて。
お姉ちゃんのこと好きなんだよね。
お姉ちゃんの良さが多くの人にわかってもらえることは嬉しいから。
「梓ちゃん、お姉ちゃんは渡さないから」
PR