「真姫ちゃーん、一緒に帰ろ?」
「……ちょっといきなり抱きついてこないでっていつも言ってるでしょ。着替えられないじゃない。それに海未やことりはどうしたのよ、あの二人と帰ればいいじゃない?」
「海未ちゃんとことりちゃんには先に帰ってもらったんだ。今日は真姫ちゃんと帰りたかったから」
穂乃果に優先してもらえていると思ったら嬉しかった。
あの二人よりも私と一緒にいたいと思ってくれたんだって。
穂乃果にしてみたら大して意味はないのかもしれないし、今日は偶々そう思っただけかもしれないけど。
「うーん、真姫ちゃんは本当にいい匂いだね」
「ちょっと匂いなんてかがないでよ、恥ずかしいじゃない。それに練習の後で汗かいてるし……」
「大丈夫、私は練習後の真姫ちゃんの匂いも好きだよ」
こういうことを笑顔で真面目に言える穂乃果はすごいと思う。
私は穂乃果からいっぱいもらっているのに私から穂乃果には何かあげられているのかしら。
穂乃果から抱きついてきたときも本当は嬉しいのに拒否するような態度をとってしまうことも多いし、好きと言われたときも素っ気ない言葉を返してしまう。
もっと凛や穂乃果みたいに自分の気持ちを素直に表現できれば良いのにと考えてしまうこともある。
実際はそんなこと出来ないし、そんな自分は想像出来ないんだけど。
もし穂乃果がこんな私を嫌いになってしまったら?
穂乃果を誰かに渡したくない、せっかく穂乃果と付き合っているのに。
「着替え終わったし、それじゃあ帰……真姫ちゃん?」
穂乃果が言い終わる前に私は彼女を抱きしめていた。
穂乃果は私から抱きしめられたことに驚いている。
それはそうよね、今まで穂乃果が抱きしめてきたときにたまに抱き返したことはあっても私からってことはなかったのだから。
「……穂乃果、もう少しこのままで……」
無言で抱き返してくる穂乃果。
この温もりを失いたくない、彼女から何か受け取るだけじゃなくて、私からも。
「ねぇ、穂乃果。この後、私の家に来ない? 穂乃果に聴いてほしい曲があるの」
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