「義之くん、そこはそうじゃなくてね」
「うー、義之くん、どうしてさくらにくっつかれて嬉しそうにしてるの?」
「弟くんの宿題を見てあげるのもお姉ちゃんの仕事なのにー」
「さくらさんにくっつかれて鼻の下伸ばすなんて……兄さん不潔です」
俺は今、芳乃家の居間で夏休みの宿題をさくらさんに教えてもらいながらやっているのだが、その近くでアイシア、音姉、由夢の3人が冷たい視線を送ってきていたり、恨みがましい視線を送ってくる。
何故こんなことになっているかというと、朝ご飯を食べた後で音姉が
「弟くん、夏休みの宿題はもう終わったの?」
「兄さんがやってるわけないじゃないですか。夏休みに入ってから連日杉並さんたちと一緒に遊んでたんですから」
「確かにまだやってないけど。由夢、あれは好きでやってたんじゃなく、杉並や杏たちに無理やり呼び出されたんであって」
「もう、弟くんは。ちゃんと終わらせないと駄目なんだからね。今日はお姉ちゃんが見ててあげるから宿題やっちゃおうね」
「いや、まだ夏休みはあるから」
「やっちゃおうね」
「いや、だから……」
「やっちゃおうね」
「……」
「……」
「……わかりました」
ということがあったからだ。それで何故音姉でなくさくらさんが宿題を見ているのかというと、このやりとりを今まで黙って見ていたアイシアとさくらさんが
「ちょっと、義之くんの宿題を教えてあげるのは奥さんであるあたしの役目なんだから。音姫ちゃんは自分のことをやってていいよ」
「アイシア、それは違うよ。子どもの宿題を見てあげるのはお母さんであるボクの仕事だよ。それにアイシアじゃあまり役に立たないんじゃないかな?」
「それどういう意味?さくら」
「えっ?言った通りの意味だけど」
というように入ってきたのだ。さくらさんとアイシアはお互いににらみ合っているがアイシアには悪いがさくらさんの言い分は正しい気がした。それは以前の冬休みに学校の教室で二人で勉強したとき、アイシアの学力はかなり低かった記憶があるからだ。アイシアが現役から退いてだいぶ時間が経っているということもあるのだろうが、下手をすれば俺よりも出来ないかもしれない。こんなことを考えている間も3人は言い争いをしている。どうにかしてくれという思いで由夢のほうをみると、
「え、兄さん、私に教えてほしいの?まあ、私は兄さんがどうしてもって言うなら教えてあげてもいいですけど」
そんなことを言ってくれた。
由夢、俺はそんなこと言ってないし、お前は俺よりも学年が下なんだから俺以上にわからないこともあるだろう。そんなことをしている間に4人でジャンケンして勝った人が俺の宿題を見ることになったようだ。
そんなことがあって、ジャンケンはさくらさんが勝った。それでさくらさんに教えてもらっている。さくらさんは沢山の博士号を持っていて頭も良いし、教え方も上手いのだが、俺が問題に正解するたびに、
「よくできたね、ご褒美あげるね」
と言ってキスをしてくるのだ。教えるときもくっつきすぎではないかと思うくらいくっついている。
「少し近すぎじゃないですか?」
と言ったら
「義之くんはボクにくっつかれるのは嫌?」
と泣きそうな顔で言われてしまった。さくらさんにくっつかれるのは嫌じゃなかったし、さくらさんは俺にとって大切な人だ。それにさくらさんが動くたびに良い香りがして気持ちがいい。まあ、さくらさんがくっついたりキスしたりする度に、3人が凄まじいまでの視線を主に俺におくってくるので精神的にきついものがあるのだが。
俺はさくらさんの笑顔を見ながら宿題が終わったらどうやってこの課題を解決しようか考えていた。
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